Lean Baseball

No Engineering, No Baseball.

君は「ラーズ・ヌートバー」という選手を知っているか? - 侍JAPAN入りすべき3つの理由

皆さんこんにちは. 野球がオフシーズンな今時期はシーズン開幕に向けてデータを整理・眺めたり, 個人的な野球データ分析システムを構築しているマンです.

いきなり本題ですが, ラーズ・ヌートバーという野球選手をご存知だろうか?

ja.wikipedia.org

阪神の(コントロールが)暴れ馬豪腕・藤浪晋太郎投手の移籍先オークランド・アスレチックス*1のファンである私, ナショナルリーグの試合はプレーオフでしか見ない(アスレチックスはアメリカンリーグである)ので正直に言うと知らんかったです.

なお年齢は2023/1/13現在で25歳, 右投げ左打ちで身長190cm/体重95.3kgと結構でかい.

昨シーズンは.228という低打率, 規定打席未到達ながらもOPS .788とクリーンアップを打たない選手の割に良い数字を残したヌートバーを意識したのはこちらのニュース.

www.nikkansports.com

名将・栗山英樹監督率いる「侍JAPAN WBC2023代表」に内定, なぜ🤔🤔🤔

そもそもヌートバーは,

  • 母親が日本人の日系二世
  • ミドルネームは「テイラー・タツジ」で母親の性を借りると「エノキダ・タツジ」
  • ハンカチ王子こと斎藤佑樹氏と何かしらの縁があったらしい*2

という日本との縁は結構あって...なんてニュースっぽい話はその辺のネットニュースに譲るとして, 「No Engineering, No Baseball」を大切にするこのブログでは,

  • セイバーメトリクスから見るヌートバーの特徴
  • トラッキングデータからわかる「ヌートバーってどんな人?」
  • 侍JAPANではどこを守り, 何番で打つべきなのか?

を深堀りしていきます.

なおこのエントリーのコンテンツは以下の通り.

ラーズ・ヌートバー #とは

侍JAPAN 2023において欠かせない選手であり, 「ちょwww侍にセンターいないwww」問題を解決するかもしれない救世主である

成績とセイバーメトリクス指標

まずは肩慣らしとして,

  • 一般的な野球選手としての成績
  • 一般的じゃないセイバーメトリクスに基づいた成績

を見ることとする.

なお, データは「メジャーリーグ好きな人なら絶対に見る」ぐらいの定番データサイト「FanGraphs」から引用する.

www.fangraphs.com

まずよく知られている指標に基づいた昨年(2022年)成績はこちら.

試合数 打席 打数 安打 本塁打 打点 打率 出塁率 長打率 OPS
108 347 290 66 14 40 .228 .340 .448 .788

結論から言うと, メッチャ優秀な選手と言えそうだ.

  • 試合数も打席数も足りない, 規定打席(502)に程遠い
  • 打率(.228)は低すぎなのでは???

とか文句も出るでしょうが, 私が優秀と判断した理由は,

  • 出塁率が高い. 低打率の割に.340もの出塁率を叩き出しているのはなぜ?と思ったら四球を51個も選んでいた. これは彼のシングルヒットの本数(33本)より多い.
  • 長打がよく出る. 全ヒット66本中, 半分が長打(二塁打16本, 三塁打3本, 本塁打14本)は見事の一言. もっと打席を与えていたら本塁打20本, 二塁打30本近く打てた可能性もある.
  • 近代野球における攻撃力の指標, OPSが優秀. .800を超えたらクリーンアップ級とも言える指標で.788は相当イケている.

まあそんなところです, 欠点らしい欠点は「ちょっと三振多い(71個)」それぐらいだろうか, それでも三振率などは前年(2021年, メジャーデビュー時)より改善しているのだが.

なお, 足が速いとの噂だが盗塁がわずか4つなのは, 長打が多い分走る機会が少なかったんだろうと理解している.*3

続いて, あまり良く知られていないセイバーメトリクス指標もみてみよう.

総合的な指標である「WAR(選手の価値を勝利数で示す)」, 打撃の指標「wRAA(得点力で定量化する, 得点にScaleしている)」, そして守備指標「UZR」「ARM」「RngR」で見てみる.

あ, どれもマイナスがあり得る指標です.

WAR wRAA UZR ARM RngR
2.7 8.9 4.9 5.3 -0.3

セイバーメトリクス上も優秀な選手だ.

  • WAR2.7ということは, 「チームに2.7勝分の価値を提供」している. 一見すると低い数字に見えるが, WAR1.0が「控え」2.0が「常時スタメン」という事を考えると, 規定打席に足りないヌートバーが2を超えているということは, 「もっと打席を与えたらWAR3.0〜4.0は行くかもよ」という仮説を暗に示している.
  • wRAAが8.9というのも実に優秀な数字. 「年間で8.9点分に該当する働き」は見事. ちなみにWARもだがこの指標もマイナスが存在するのでプラスというのはチーム貢献(もしくはマイナスで足を引っ張っている選手を救済している)事を意味する.
  • 守備範囲を示すUZRが外野手として4.9と非常に優秀. 肩の強さを表すARMが大きなプラス, 守備範囲を示すRngRがちょっとマイナスという所を加味すると, 外野手としては「強肩を武器とする好守の外野手」であることを示唆している. なお, カージナルスにおける彼のポジションはライトだが, センターもレフトもそれなりに出場しており3ポジション守れる選手である.

成績とセイバーメトリクス指標を見た結論.

ラーズ・ヌートバーは長打と出塁, 強肩を武器とする攻守共に優れた外野手である.

WBCじゃなくても, この選手見てみたいぞ...アスリート系フィジカルモンスター外野手好き的には.

トラッキングデータで眺めてみる

通常の成績とセイバーメトリクスが優秀であることはわかった.

だが今のメジャーリーグには「トラッキングデータ」と呼ばれる, 「打ったり投げたりしたボールのデータを事細かに記録してまっせ」という便利なデータが存在する.

baseballsavant.mlb.com

こちらの「Baseball Savant」のデータを元に,

  • 打球および打席での特徴
  • 守備範囲

こちらを可視化することでどんな選手か見てみたいと思う.

なお, こちらの可視化は私が独自開発・絶賛アップデート中のこちらのシステムを使う.

shinyorke.hatenablog.com

あ, これの話は来月のデブサミ2023(2/9, 2/10)でもやりますそっちもよろしくおねがいします⚾

event.shoeisha.jp

おっと, 話が脱線してしまった.

自作のデータ分析・可視化システムで打球の特徴を確認してみた.

ヌートバーの数字を初めてみましたの巻

特筆すべきグラフを抜粋して紹介する.

ヒット性打球の到達位置

先程のプロフィールを思い出して欲しい, 彼は左打ちいわゆる「左バッター」である.

そう, 彼はとにかく引っ張ってヒットを稼ぐタイプだ.

「センター返し命」「コンパクト教」「打撃は逆方向だろう」の信者・有識者が見たら発狂するような傾向である, 「足速いんだろ?コンパクトに振って逆方向に打て」的な.*4

先程成績の件で「長打がよく出る」という特徴に触れたがその秘密は間違いなく「来たボールをフルスイングでがっつく」所だと思う, 打ち損じも多いけれども*5.

そんなヌートバーの打球は打球速度・角度にもよく現れていて.

横軸: 打球速度(km/h) 縦軸: 打球角度. 150km/h超え多くない?

打球速度が速い, とにかく速い.

凄さで言えば「日本いや現役野球選手唯一無二の至宝」オオタニサンの方が凄いのだが, もしかすると一番バッタータイプかもしれないヌートバーが強打者並みの数字を出しているのは非常に興味深い.

ちなみに変化球・真っ直ぐへの対応だが,

4シーム・カッターなど速いボールに食いついていそう

4シーム(いわゆる真っ直ぐ), カッター(カットボール)といった比較的球速が出るボールが得意なようだ, もしかすると変化球攻めに合うと辛いのかもしれない.

ここまでは打撃の特徴を見たが今度は守備の特徴を見てみよう.

本来ならセンターとしての守備範囲を可視化したいのだが, データの都合で上手く表現できなかったため, ライトを軸に見ることとする(申し訳ない🙏).

なお, データには「打球を処理した位置」を含むものの, 「肩で抑えた」「強肩で進塁を阻止した」といったデータが無いので肩の評価はできない(参考).

というわけで, 2022年にヌートバーがライトとして処理した打球を可視化した結果がこちら.

ヌートバーが処理した打球とおおよその守備範囲

グラフの点は飛んできた打球, 大きな楕円は「打球をアウトにした位置を元にしたおおよその守備範囲」を表す.

どうやら彼は右中間方面の打球を二塁打として許しがちらしい.

また, 他のライトと守備範囲を比較したらどうなるかも見てみた.

比較した相手は, 侍JAPANでのチームメイトとなるシカゴ・カブスの鈴木誠也.

オレンジがヌートバー, 青が鈴木誠也の守備範囲

鈴木誠也, ライトの守備が上手いのでは?という別の気付きが出てきた.

少なくともヌートバーの守備範囲より広そうである, なおUZR/ARM/RngRといったセイバーメトリクス指標はヌートバーがすべて勝っている(セイバーメトリクス上ではヌートバーが上).

まあ, 決定的な差は無いのと鈴木誠也もメジャーでは上手い方のライトという評価なので,「侍のライトは鈴木誠也」という選択肢は悪くないと思う, 日本時代と同じぐらい打ってくれたら.

トラッキングデータを眺めてみた結論.

ヌートバーは引っ張り打球で打球速も速い優秀なバッターで, 守備もまあイケるだろう.

トラッキングデータの打球速・守備範囲もいい感じということは身体能力もそれなり(通常成績では身体能力を示すことはほぼできない)とわかったのが収穫でしょう.

侍JAPANでの役割は?

では侍JAPANでヌートバーはどこで何をさせるか?

私が思う結論は一つ, 何番でもいいからスタメンのセンターで使え! これに限る.

私が思い描いている侍JAPANのスタメンはこちら

打順 守備位置 選手名 所属 備考
1 DH 大谷翔平 ロサンゼルス・エンジェルス 二刀流の時はどうしよう?
2 2B 山田哲人 東京ヤクルトスワローズ 調子次第で吉田正尚と打順チェンジするかどうか
3 RF 鈴木誠也 シカゴ・カブス バットに火がついてほしいという願望も含む
4 3B 村上宗隆 東京ヤクルトスワローズ 不動の村神様
5 1B 山川穂高 埼玉西武ライオンズ 代表に入って欲しいと切に願う, 入らなかったら牧秀吾(DeNA)が最有力
6 LF 吉田正尚 ボストン・レッドソックス DHにしたいがオオタニサンいるので守備位置を渡さざるを得ない
7 CF ラーズ・ヌートバー セントルイス・カージナルス 長打も出塁もできるが低打率なのでここかな
8 C 甲斐拓也 福岡ソフトバンクホークス 中村悠平(ヤクルト)とプラトーン起用濃厚, 3人おけるなら森友哉(オリックス)も良し
9 SS 源田壮亮 埼玉西武ライオンズ バックアップは周東?ショートが人材不足すぎてやばい説

メジャーリーグとヤクルト, ライオンズだらけになってしまった...

それは別として, ヌートバーは侍JAPANのスタメンセンター最有力と私は思う.

他のセンター候補として,

  • 西川龍馬(広島東洋カープ)
  • 塩見泰隆(東京ヤクルトスワローズ)
  • 近藤健介(北海道日本ハムファイターズ 福岡ソフトバンクホークス*6
  • 近本光司(阪神タイガース)

こんなところだろうか. あ, 周東(福岡ソフトバンクホークス)はスタメン前提の選出ではないのと, 長年侍JAPANを支えてきたギータは代表辞退とのことなので候補から外している.

上げた彼らにはいくつか不安があって,

  • 西川・近藤は守備が不安すぎる. 特に近藤は本職センターではない.
  • 近本は足と打率が計算できそうな一方, パワー不足・肩に難ありとメジャーリーガーが揃う国際大会で使うのはやや不安, というか代表入り難しいでしょ.

これで少なくとも西川・近藤・近本の芽はなくなる.

唯一, 右打者である塩見が一応ライバルって事になるのか?パワーもそこそこあるので(神宮球場が本拠地での二桁本塁打なので少し怪しいが).

とはいえ, メジャー2年目の若手でパワーヒッターっぽい数字を出しているヌートバーの魅力に賭けてみたいなと私は思っています.

結び - 侍JAPAN入りすべき3つの理由

というわけで, 「え?ヌートバーって誰??」ってなったので駆け足でデータを見てみた.

このエントリーのまとめとして, 「ラーズ・ヌートバーを侍JAPAN入りすべき3つの理由」を提示して締めるとする.

ラーズ・ヌートバーが侍JAPAN入りすべき3つの理由

  • 打っては出塁と長打が武器, 日本でセンターを守れる外野手でここまで飛ばせそうな若者はいない
  • 守っては強肩が武器で守備が上手い, ライトの経験が多いのが不安だがセンター出来ないってことはなさそう
  • 他のセンター候補と比べ, 総合的に強みが多い. 弱みがあるとするなら打率的な確実性だが出塁率と当たれば飛ぶ魅力には勝てない.

おっと誰ですか?「センターの候補, どれも帯に短し襷に長し」とか言ったのは?

私も本音はそれです, どうしてこんなにセンターがいないのか?*7, あと誰も触れていないけどショートの人材不足*8も同じぐらい深刻.

今後, 代表キャンプとか練習試合で見極める事になるでしょうが, 2017年以来6年ぶりのWBC, 楽しもうじゃありませんか.

という所で私のお話はお開き.

また野球のお話でお会いしましょう, それでは.

*1:アスレチックスでの日本人投手獲得はあの藪恵壹氏以来だと思うので, その意味でもワクワクしている, 元阪神ファン的には.

*2:というのをハンカチ王子本人から切り出すのがやってんなーー!って思いました.

*3:に加えて私自身「盗塁で走る努力するなら長打打てる努力しろよ」と思ってるマンなので然程気にならないというのもある.

*4:個人的には極端に引っ張る・フルスイングもどうかと思うけど「野手の間を抜けるいやらしい打球」だけ追求するのもなんだかせせこましいし見ていて然程面白くはないのでセンター返しも逆方向もあまり好きじゃないです, 結果的にうまくいったラッキー的な話ならいいですが.

*5:四球多くて三振率も改善してるのにこの低打率ってあたり, 打撃のアプローチで何かしらの問題があるんでしょうね, そこまで掘って調べていませんが.

*6:残ってくれないだろうとは思ってたけどベタにホークスとは...個人的には怪我にだけ気をつけて元気に試合に出てほしいです.

*7:新庄剛志が好きでプロ野球を見始めた勢としては, この現状結構悲しいです. 期待通り行かなかった人たちの名前が脳裏にチラホラと...

*8:ここ数年, ショートの有望株っていない気がするんですよね少なくとも代表に入ってくるようなクラスは.