新庄剛志氏(元BIG BOSS)の現役時代の守備に憧れて野球が大好きになった人です.
エグい守備範囲, 糸を引くような速くて美しくて強いバックフォームと強肩, どれも完璧でしたよねと*1.
どうしても気になる外野手の守備, なんとか評価と可視化ができないかなーと試行錯誤した結果,
- メジャーリーグのトラッキングデータを使えばイケる!
- 少なくとも守備範囲とプレーの質を測ることはできそう(なお肩と走力は難しい)
ということがわかり, やってみたらいい感じだったのでブログに書こうと思いちょっとやってみました.
今回は好きなポジションであるセンター, プロレベルになると難易度が一気に高くなるライト*2でやってみました(レフトはまだやってません).
上記のような可視化をしつつ, 数字も交えて考察を書きます.
というわけで本日のスタメンはこちらです.
おそらくこのブログでは初めて扱う守備の話題, どうぞご堪能ください!
TL;DR
- 外野手の守備, 思った以上に上手な人と下手な人の差が明確にあり, 決して無視できない話だった(特にセンター).
- 鈴木誠也はもうちょっと後ろを守ったらGG賞を取れる可能性.
外野手を守備範囲で評価する
今回の調査ですが,
- 2022年のStatcastデータを元に, 処理された打球を選手ごとに集計・プロット*3
- アウトとして処理した打球の上下左右の最大値を元に楕円形を描き, 守備範囲を表現
という手法をとりました. なお, メジャーリーグは頻繁に極端なシフトを引くことで有名ですが, 極端なシフトで処理した打球は今回は含んでおりません*4.
...という言葉の説明より, 実際のモノを見てもらったほうがイメージが湧くかも.
ざっくり解説すると,
- 散布図の点が打球で, 結果ごとに色分けされている. アウトになった打球は灰色, ヒット等のインプレーは他の色で表現.
- 塗りつぶした灰色の円が「大まかな守備範囲」. この円の外の打球は基本処理できない(ヒットになる).
となります.
また, 外野手同士の守備範囲の比較は「大まかな守備範囲」を色違いでプロットして再現しています.
二人の選手の範囲を描くことである程度の比較・視覚化をしています.
なお, 大変残念なことに外野手の重要な能力(もしくは外野守備の醍醐味)である「送球」「肩の強さ」といったトラッキングデータはStatcastの公開データに含まれていません, 肩の強さは計測不能という事でご覧頂ければ幸いです*5.
実際に調べてみた
というわけで実際の調査結果を見てみたいと思います.
- 今年(2022)のGG賞選手. ちなみにメジャーのGG賞は外野もポジションごと選出です.*6
- 日本のメジャーリーグ・野球ファンが見る機会が多い選手
この条件に該当する選手をセンター・ライトそれぞれ二人ずつピックアップし, 紹介します.
センター
日本で言う所の,
- 阪神近本から打撃能力を引き算した守備の名手型センター
- 守れない代わりにめっちゃ打つ巨人・丸っぽい打撃型センター
この二人を比較しました.
トレント・グリシャム(上手)
現役でセンター守備の名手と言ったら今だとダルビッシュ有が所属するパドレスのグリシャムと答える方が多いでしょう.
2020年そして今年2022年にセンターとしてGG賞を受賞, ちなみに打撃はスタメンで使うのには悲惨(ほぼフル出場なのにも関わらず打率が2割以下!?)なぐらい微妙な選手です*7.
https://www.fangraphs.com/players/trent-grisham/18564/stats?position=OF#fielding
Fangraphsのセイバーメトリクス指標によると,
- UZR/150*8はプラス評価で明確に守備は上手.
- UZRを構成する変数の内, 守備範囲を表すRngR(Range Runs)が大きなプラスである一方, 肩の強さを表すARMがマイナス評価.
- 「守備範囲がめちゃくちゃ広く, 肩の強さはリーグ平均以下」という外野手.
そんな, 「阪神近本から打撃能力を引き算したようなセンター」であるグリシャムさんの今シーズン守備はこんな感じです.
実は今回の調査にあたり, 「守備範囲の楕円面積のランキング」みたいなのを作って比較したのですが, このグリシャムさんの守備範囲は(プロットした楕円に合わせると)約4.2km² でした.
ちなみに阪神甲子園球場の面積は14.7km² , 半分が外野(約8km²)と考えるとグリシャムを2人外野におけば打球は余裕で処理できることになります(単純な算数で表すと)
その他の特徴としては,
- 何かしらのセオリーなのか, 守備範囲内であったとしても前に飛んだ打球はsingle(単打, オレンジ色)が多い.
- 逆に後ろの方の打球は守備範囲外の打球が二塁打になっているものの, 基本的に処理ができている.
そんなことに気が付きました.
マイク・トラウト(?)
グリシャムの存在は「ダルビッシュ有の試合を毎回見ているファン」の方ならご存知かと思いますが, 日本人的には(オオタニサンの同僚として)もっとお馴染みなセンターがいます.
ロサンゼルス・エンゼルスの大スター, マイク・トラウト選手です, センター云々というより, メジャーリーグ全体のスーパースターの一人です, 最近はオオタニサンの方がすごいけれども.
彼の打撃は「常に3割30本100打点を狙える」ぐらいやばい選手ですが, Fangraphsのセイバーメトリクス指標によると,
- 年代別UZR/DRSの傾向から察するに, キャリア前半(若い頃)は「平均より守備が上手なセンター」である. ちなみに一番数字が良かった2012年にはフィールディングバイブル賞*9を受賞(GG受賞は未経験).
- しかし近年, 2019年あたりから陰りが見え始めていてマイナス指標が多い.
- 基本的に肩が弱く(ARMが基本的にマイナス), 守備範囲も近年はメジャーの平均より若干狭い(RngRを注目するとわかる).
日本のプロ野球で言うなら, 「守れない代わりにめっちゃ打つ巨人・丸(打席の左右は違うが)*10」っぽさあるトラウトさんの守備範囲と打球傾向はこちらです.
パッと見た感じ, グリシャムさんより狭そうです.
画像は同じ縮尺で作っているんですけどね...明確に狭いです.
- 範囲外, 外野後ろの打球がdouble(二塁打, 青色のプロット)が多く, めっちゃ処理しそこねている可能性.
- 右中間の打球が結構二塁打になってるのはライト(もしくはセカンド)の介護でもしていたんだろうか?説.*11
確かなのは, センターを守らせるのには危ういのでレフトに動かしたら?って思いました.*12
グリシャムとトラウトの差は?
(トラウトの守備範囲は)パッと見た感じ, グリシャムさんより狭そうです.
とうっかり書いちゃいましたが実際どうなん?という答えはこちらです.
ひと目で分かる差になってて中々厳しいとわかりました.
余談(とフォロー)ですが, トラウトは確かに平均的なセンターより守備が下手(もしくは昔上手かったけど衰えが来ている)なのですが, 数字上は「中の下」ぐらいなのでそこまでひどくはありません, むしろ守備範囲がエグすぎるグリシャムが変態な可能性もあります.
こちら, 守備範囲の楕円の面積ですが,
- グリシャム(オレンジ)の面積は約4.2km²
- トラウト(青)の面積は約2.75km²
守備範囲で約1.5倍の差があるとは思いませんでした, これは無視が出来ない差な気もします.
阪神甲子園球場の面積は14.7km² , 半分が外野(約8km²)と考えるとグリシャムを2人外野におけば打球は余裕で処理できることになりますが, トラウトの場合3人おかないとアカンです(単純な算数で表すと)
ちなみに面白いと思ったのが,
- 上手いグリシャムの定位置(と思われる場所)が外野の前よりでトラウトが後ろにいる
- トラウトが後ろにいるのはおそらく「脚力(足の速さ)の関係上, 前に行きすぎると後ろの打球が処理できない」からと思われる
この守備位置はあくまでも推測かつ, 球場や試合の状況でも変わるのでなんとも言えませんが, やっぱトラウトはレフト*13でいいんじゃないかって思いました.
ライト
今シーズンのワールドシリーズ勝者のライトと, 今シーズンからメジャーに移った侍のライトで比較しました.
カイル・タッカー(上手)
世界一軍団アストロズ期待の若手, ようやっとライトの定位置に定着したカイル・タッカー
今シーズンのOPSが.917, 打率.294/30本塁打/92打点と絵に描いたような強打者です.
個人的には打つ人だと思っていたのですが, しれっとGG賞を獲得しているぐらい守備も上手だそうです.
2022年の守備指標を見ると,
- UZRはプラスで, (もっと上手いライトもいそうだが)GG賞受賞は妥当
- 守備範囲は平均よりやや狭い, 肩は強い.
- 「強肩を武器にライトを守る」タイプ. なおちょっとだけセンターもやってるがそっちの数字は悲惨*14.
そんなタッカーさんの守備を可視化するとこうなります.
理想のライトなのでは?というような守備をしてそうです.
- 後ろに抜かれるヒット性の打球が少ない
- ライトのライン際の打球もまあまあ守備範囲に入っている
- 全体的に守備範囲が広そう
二塁打・三塁打より単打が目立つのはおそらくうまく処理できてるからでしょう, 試合での動きは見たことないですが.
鈴木誠也は何を頑張るべきか?
打席の左右は異なりますが, 日本にも侍を代表する強打好守のライトがいます.
詳しい説明は不要ですね, 鈴木誠也選手です.
打撃に関しては移籍一年目の今年は正直期待に応えていない感あります, 来年はもっと頑張れるでしょう.*15
守備はどうだったかと言うと,
- 上手なライトであるという評価. UZRはプラス
- 守備範囲は狭いが強肩で補っている, ARM 3超えは中々の数字
守備の結果をプロットすると,
比較的守備範囲外の打球が二塁打になっていたりしてますね.
先程紹介したタッカーと比べるとこんな感じ.
守備が上手いタッカーは後ろを守って後方もカバーしてる感じです.
言い方を変えると, 鈴木誠也さんの守備は後ろに打球を抜かれがちという欠点も見えます.
こうやって重ねて描くと守備のスタンス・特徴がわかるんですね...
先程も紹介したとおり, セイバーメトリクス上鈴木誠也はめっちゃ強肩(ライトとしてのARMが3.3, タッカーが3.4なのでほぼ互角)なので,
鈴木誠也はもうちょい後ろを守ったらGG賞ありえる!
という仮説が生まれます*16.
総括
というわけで, 外野手の守備範囲に振り切ったテーマで守備力の評価をしてみました.
今回はお試しで外野手版をやりましたが, 今度は内野手もやってみようと思います.
なお, 冒頭にも書いたとおりこの評価方法はすべての守備力を評価できるものでは有りません.
なお, 大変残念なことに外野手の重要な能力(もしくは外野守備の醍醐味)である「送球」「肩の強さ」といったトラッキングデータはStatcastの公開データに含まれていません, 肩の強さは計測不能という事でご覧頂ければ幸いです.
ただ, 「飛んできたボールを取れるか否か」みたいな判断には十分使えるので, Statcastさんが送球のデータも公開してくれることを期待しながら待ちたいと思います.
最後, どうしても紹介したい雑談を.
冒頭に紹介した新庄剛志氏の守備の上手さの秘密は過去のプレー集でもわかるのですが,
トクサンTVで解説しているガチのこの動画が一番エグいし学べるので非常におすすめです.
最後までお読み頂きありがとうございました.
Appendix: 参考資料など
Statcastデータを用いた分析・解析を行いたい方は是非このブログの過去エントリーをご参照ください.
Statcastのデータ仕様はこちらにまとまっています.
- 公式のデータ仕様(CSVデータの項目説明)
- 私(shinyorke)が独自にまとめているデータ仕様(上記公式データ仕様を元に注釈したもの, 日本語)
*1:思い出補正されてるかもですが, 新庄さんが現役を退いた後, 日本のプロ野球で守備がやばいセンターの記憶があんまりありません, メジャーリーグだと何人かいるのに(元ツインズのトリー・ハンターとか, 現役だとレイズのキアマイアー, アスレチックスのロレアノとか).
*2:センターは二遊間と両翼のフォローがあるので元々難しい, ライトは草野球・アマチュアレベルでは「ライパチ(ライトで8番)」が定番となる程度に守備は重視されないが, プロやアマチュアでもガチレベルになると進塁阻止や本塁までのバックフォーム云々でレベルが格段に上がります(≒下手くそな奴に守らせるリスクが非常に高くなる)
*3:投手オオタニサンのパフォーマンスを可視化した際に登場した「Hit Location」グラフと同じ手法を使っています, 打球到達位置はStatcastに含まれており, 投げた投手・打った打者以外にも守備についた野手も記録されているため, 今回のような可視化・分析が可能となっています.
*4:大変便利なことにStatcastの打球データには「内野でのシフト」「外野でのシフト」がフラグとして存在しています. 今回は外野シフトが「通常(シフトなし)」の打球データのみ抽出しています.
*5:データの仕様上, 「送球した事実」は拾える可能性があります(実況テキストを含んでいるので言葉尻で判別可能)が, 「野手が投げたボールの球速」はデータに含まれていないのと, 「塁に出たものの, 外野手の肩が強いから進塁を控えた」というイベントは記録がされない(起こった事実ではなくあくまでオピニオンであるため)のでこのような制約があります.
*6:日本のGGは外野だとポジション関係なく選出(センターが3人居てもいい)なのですが, メジャーはちょっと前からレフト・センター・ライトそれぞれで評価・選出するようになっています.
*7:打撃だけ見たら上州のイチロー感あります(小声), パワーはそこそこ持ってそうですが.
*8:UZRはUltimate Zone Ratingという守備の評価指標で, UZR/150はUZRを150試合での平均値に慣らしたもの.
*9:最もいい感じに, 賢く守れた選手に表彰される賞でGG賞とは別に存在する.
*10:本当は右のセンターで例えたかったのですがそこに該当する日本人選手, 現役だと居ないんですよね.
*11:記憶ベースですが, エンゼルスの二塁とライトは結構日替わりだった記憶. レフトも日替わりですが後半から動きがいい若手が入ったりしてたのでトラウトより守れていた可能性があります.
*12:先程の解説通り, 弱肩なのでライトは無いでしょう.
*13:ライトでもいいかもですが如何せん肩が微妙なのでレフトのほうが適任でしょう.
*14:通算29イニング, センターの守備についているが各指標は恐ろしくマイナス. 盗塁もしてるので足は遅くないと思うのですが, センター向きのプレースタイルではないということでしょう.
*15:長打の割合はホームラン少ない以外イメージ通りでしたが, たくさん三振して武器である選球眼が活かしきれていないのは勿体ないと思いました, 福留孝介(奇しくも同じカブスでデビュー)から選球眼を抜いた感じのスタッツというか.
*16:日本時代の怪我で足遅くなってるとかありそうな気もします, 故に前にいるかもという仮説もあります.